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JOURNAL REPORT #02

Liberaiders® Director Mei Yong Interview

Liberaiders®︎ Director

Mei Yong

梅 咏

1967年北京で生まれ育ち、 10代後半から日本に住み、 世界中を旅してきた。 90年代のオリジナル・ストリートウエアを始めとする、 数々のインターナショナル・ブランドとのクリエイションに携わり、 ライフワークであるカメラを手に写真を撮り続けてきた。 彼のライフのBGMはもちろんロックンロールである。

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明確なミッションを持ってスタートしたブランド<Liberaiders(リベレイダース)>。トラベル、ロックンロール、フォトグラフ、ミリタリー。これら4つのファクターを軸に、ストリートカルチャーのフィルターを通したコレクションを作成し続けている。中でも、ディレクターMei氏自らシーズンテーマのベースとなった国へ赴き、現地で出会う人やランドスケープを切り取り、そこで得たインスピレーションをアイテムへと落とし込むのがクリエイションにおける最大の特徴となっている。

しかし、2019年末以降この活動にストップがかかる、COVID-19の世界的蔓延がその理由だ。物理的な移動に大きな制限が設けられる中、ブランドは期が熟するのを待ち続け、クリエイションは高みを目指し確実に歩みを進めていった。図らずもそれを証明したのが今シーズンローンチしたVANSとのコラボレーションだろう。“好き”を追求し続けた結果、あくまでも自然発生的に進行したのが本コラボレーション。8月上旬に行われた上海でのローンチイベントは、コロナ渦を忘れさせるほど歓喜と熱狂の渦に包まれたのが記憶に新しい。

21AWシーズンは原点回帰し、1stシーズンで切り取ったチベットに再フォーカスをしたコレクションを展開する。世界的に大変な状況であることを十分に理解しながら、チベットでの現地撮影も敢行した。ここで得られたものは、通常では絶対に手にすることのできないプレミアムでピュアな内容ばかりだった。そして、そのどれもがLiberaidersにとって新たなフェーズへ突入することを示唆させるファクターとなるのは間違いない。

緊急事態宣言化を切り取った東京、宣言解除のタイミングでシューティングを実施した沖縄。国内での撮影が2シーズン続き、今回改めて海外撮影へと舵を切った。まずはこの理由から話を伺う。

「2019年末を境に約2年間コロナ禍にいるので、ストレスを長期間感じているのは事実です。すべての活動が停滞を余儀なくされ、自分たちのような企業でも未だに影響を受けています。全世界的にここまで経済活動にストップをかけられることはなかったワケですから。でも、これって今までやってきたことを一度立ち止まって皆で考えましょうということかもしれないと思ったんです。コロナ渦になるまでは売上至上主義的な印象でしたが、周囲を見渡しても(ブランドや会社が)10年、20年と続いてるワケです、程度は違えどこの状況でも。つまり、これからどうしていくかを考える良い機会になっているのは間違いない。経済活動ももちろんそうですが、あらゆる立場の人がこの状況から抜け出したいと思っている。自分もコロナ以降、仕事に対する考え方は明らかに変わりました。ただ、一つ言えることはブランドを止めるわけにはいかないということ。

自然災害が起きた時の動物たちと同じように、今人間は逃げ場を求めている。その行動の一つがキャンプだったり、山に入ったり、人と接触しないような大自然との触れ合いになっていると感じていました。ブランドは別にしても、今何をしたいかと問われたら最初のシーズンで訪れたチベットのことが漠然と思い浮かんだんです。(1stシーズンでチベットへ行った時)自分の存在がすごく小さく思えた場所で、正直かなり衝撃的な感覚でした。(自分の中では)とても貴重な出来事だったんですが、一方ではブランド運営のこともあるので結構悩みました。この状況の中でも海外へ行くべきかどうか。あらゆる可能性を踏まえ、可能ならチベットにもう一度行きたいと言う思いが強くなり、今回現地へ行くという結論に至ったんです。精神的な充足という意味でも大自然の中に身を置きたくなったのは事実です」。

コロナ前と後。世界ではどの様な変化をみせていたのだろう。加速度的に空白の2年間を埋めていくとある事実が浮き彫りとなった。

「前々回の東京、前回の沖縄の時は不安の中で、気を使いながら撮影したシーズンでした。でも中国はコロナの対策が上手く整っていると聞きまして。行く前に現地の家族や友人たちに状況をヒアリングしたんです。実際には、飛行機を降りてから1回と隔離が明けるまでに4回のPCR検査が待っていました。その全てが陰性で初めて安全とみなされるんです。健康状態ってどこ行っても必要となるステータスなので、どこで(コロナ)患者が出たか即座に絞り込みが出来る。絞り込んでいる範囲ですべてPCR検査、だから中国は大体どこで出ても大体2週間で感染者数が0になる。あれは凄いシステムです。今の中国は、コロナ収束という観点で見ると世界ナンバーワンレベルかもしれない。昨今、プライバシーのことを問題視されますが、実際は個人のプライバシーよりも安全の方が重要。それは自分も感じました。コロナって感染病なのでやるべきことは2つ、3つしかない。検査・隔離・治療。その3つさえ完璧にできれば(感染爆発は)抑えられるハズです。これはアジアを見渡しても中国、ニュージーランド、シンガポール、台湾くらいしか徹底していない。台湾も一時は爆発してましたが、今はもう大丈夫ですしね。こうして事前情報を得ていたこともあり、不要な心配をしなくて済む中で撮影ができたのが今回でした。

チベットは何度行っても圧倒されますね。ただ、前回はチベットと(中国の)四川省の間にある遊牧民の多いエリアへ行ったんですが、今回はラサという宗教と文化の中心地に滞在したんです。ラサはチベットでも都会にあたる場所ですが、チベット自身、日本の何倍もの面積がある。国土の大きさの反して人口は少なく、場所によっては宗教の中身も変わってくる場所でした。今回は上海に滞在した後でチベット入りしたんです。上海で2週間の隔離を経て、1週間ほど上海を回り、実際にチベットへ辿り着くまでは25日間くらい掛けました。久しぶりなこともあり滞在時間を長くしたので、上海の街並みをゆっくり見て色んなブランドや若者とも交流をしたんです。(前回訪問した)3年前と比べると上海はかなり変わったな、というのが率直な印象です。普段は東京にいるのでアジアナンバーワン都市は東京という自負がどこかにあるんですが、上海に行った時、もちろん(中国での)コロナ収束後の状況も相まっての話なんですが、かなりの活気を感じました。若者たちもすごくアグレッシブだし、あらゆるカルチャーに挑戦している。一方、日本はコロナになって以降インバウンド需要が無くなり後退している感がすごくあります。それは上海との大きな違いに繋がっている気がしますね。僕は(今回上海の街へ)見て回るまでは正直そこまで中国市場に対してビジネスのウェートを置いていなかったんです。どんな人を狙うか、みたいな部分まで落とし込んでブランドをやっているワケでもないので。でも、今回の旅ですごく感じたのは、中国市場が世界のトップにまで上り詰めたんじゃないかと思えた点です。未だに前を向いて進んでいて潜在能力が高い。少なくとも北京・上海・深圳・広州などの都市は、世界の超一流都市とほとんど差がない。もしくはさらに進んでいるような感じになってきていると思いますね。

20歳の時に北京から出てきて日本に住んでもう30年以上経ちます。変な話、日本での生活の方が今となっては長くなり、メディアから見聞きしている情報も日本寄りになっていますし、そういう意味でもブランドコンセプトの一つ、“TRAVEL(=旅)”を通じて自分にとっての真実を探しましょう、という意味合いが重要になっています。若い頃はロックンロールや映画の影響で、闇雲にアメリカ、アメリカってなっていた気がするんです。でも今の年齢になると、国や政治、個人とかのしがらみを取っ払って、自分が行きたい所はどうなってるんだろう、と気になったところへ足を向け、自分の目で確かめることが重要になった。そこで得たことを物作りへ反映させることがすごく大切になっています。ブランドを通して、そこを実現できるような環境になってきているのは事実です。国によっては同じ場所を紹介する本でも違う内容の記載になったりすることはよくあります。であれば、自分が現地で行ってそこで生活することや旅の中で人に出会ったりすることが大切なんです。それが今回もすごく意味のあるものになったと思っている点。宗教も本で勉強しているつもりでしたが、世界で一番古いと言われる寺院に行った時に、あのオーラを感じるには現地に行くしかないと痛感したんです。自分は信心深いタイプではないんですが、あの場では確実にオーラを感じました。何千年も前の人たちが創り上げた集大成が寺院なワケで、飾ってある壁画も真意までは分からないですが、自分たちが感じるより深い何かを表現しているのは間違いない。

自分たちが日々やっていることをしょうもないと卑下したくはないですが、コロナのこと、ブランドのこと、スニーカーのことなんかを話をしているのが、蟻よりも小さいことに感じてしまう。でも、逆に言えばそれだけ壮大な物を前にすると、色々なストレスから自然と抜け出ていましたね。地球上には何十億と人間がいますが、その中で何人の人寺院に行けるのかを考えると、自分はすごく幸運な人間なんだなと思えましたね」。

チベットを切り取った荘厳な規模のランドスケープ。海抜4,000mに存在するスケートショップ、チベットで活動を続けるラップグループ。チベット的ストリートカルチャーは百花繚乱の装いをしていた。

「(大パノラマの写真を指して)これは海抜4400m上の寺院なので雲の中で撮影した画像です。カメラじゃなくて肉眼で見るともっと壮大さが伝わるんですが。走れば呼吸が辛いし、頭が痛くもなる。つまりは自分の体で大自然を感じられる海抜ということです。こうしたことも自分にとっては偉大な経験で、誰かに何かをしろって言われてやっていることではないですから。ああいうところで生活していたら政府がどうとか、国がどうとかよりも相手にするのは大自然になるワケです。そんなところも素晴らしい。俗世間にある詰まらないことはどうでも良いって感覚になれるんですから。あまりにも圧倒的な自然にやられちゃうんでしょうね。

チベットでは雪山が神様なんです、どこに行っても。現地で仲良くなった登山家の人がいたんですが、その方は8回チョモランマに挑戦して2回登頂に成功してる人だったんです! 登山博物館で紹介されている内容を見ると、ある偉大な登山家は、酸素ボンベ無しで10合制覇したとか、そういう資料が沢山あるんですね。それ見た時に違う世界に生きている人たちなんだなと感じたんです。ある種本当の人類だと思った。ヒマラヤに挑戦する人たちはかなりの割合で遭難もします。でも腐らないで氷になるから、山頂に行けた人は必ず先人挑戦者に手を合わせたりするんだとか。そもそもの価値観が違うんですよね。考えてみると、チベットのお坊さんたちもその領域の人たちなのかもって思えたんです。僕らは普通の人間ですが、彼らはより神に近い領域にいる。だから神は存在するのかって問われたら、今はいると答えると思います。あの場へ行くと自分が浄化されていくのを感じるんです。僕らが生きている社会は資本主義という言葉を使っていますが、自分の中で資本主義は最終的に人間性を無視して金儲けをするもの、として理解している。だからこそ、チベットに行って感じたのが、フェアな気持ちになれる神聖な場所ということ。人によって感じることはそれぞれ違うんでしょうけど、神のいる場所と自分は感じたのかもしれません。

あと今回、地球上で一番高度の高い位置にあるスケートショップの人たちにもお会いしたんです。若い頃にアメリカへ行った時と同じ様な感覚になりましたね、スケートショップに着いた時。本当に興奮しました。海抜4000mっていう所にスケートショップがあるなんて、ありえないなと思ってましたから。オーナーさんはタトゥーも彫れる方なので、スケートだけじゃなくストリートカルチャー全般を発信していた。そうそう、目の前でスケートも見せてくれましたよ。4000mの高さでオーリーをやったり、トリックをキメたりするのは純粋にすごい! としか言いようがない状況でしたね。自分の目で確かめるまでは本当にいるのかなと思っていましたが、実在していました」。

ブランド恒例となっているポートレートにも特徴が見られる。メディアではとりあげられることのない真実の肖像はどの様に切り取るのか。

「これまで撮影してきた人たちのポートレートって笑顔が多いんです。政治的な色合いが濃いエリアに行くことが多かったので、知らない間にそこにいる人はこうなんじゃないか、と勝手な思い込みをしている。でも現地に行った時に感じるのは皆我々と変わらないということです。むしろ僕らよりも精神的に良い状況で生活している様に思えます。これはキューバも、ネパールも、ロシアも、今回のチベットも同じです。こうした側面を見せることがブランドにとって意味があることに繋がるのかなと思うんです。写真を見ることでチベットにスケーターがいることとか、ラッパーがいることとかが分かる。でも本当に普通にいるんですよ、これはどこのメディアで調べてもなかなか出てこない情報です。多分ですが、今シーズンの写真や動画を見た大抵の人はチベットへの印象が変わるハズです。でも、これが実際に僕が見てきたチベットの真実の姿。根本的には僕たちと何も違わないんです。日本にいると貧しい国とか、豊かな国とか、経済的な指標で幸福度を測ろうとしますよね? でも幸せってお金では測れない。自分もこの歳になってもまだ色々な所に行って、こうしたことを感じられるということが、人生の財産だと思っていますし。ブランド立ち上げる前は時間的にも予算的にも正直余裕は無かったんです。でも、今回はしっかり仕事としてできるのだから、すごく効率の良い旅でした。精神的にも良かった。世界は大きいので色々な国の文化や音楽を学べるのも大事ですが、人と触れ合うことってもっと大事かなって、今後の人生を豊かにしていくためには。これまでは豊かさ=お金、だった。でも今回のように、その全く違う価値観で生きている人たちと触れ合うことって自分の人生をより豊かにしてくれました。大変な状況の中でも行って正解かなと思えたのはこれが理由です。精神的ストレスの無い、バランスが保てる環境ってすごく大事ってことです」。

最後に、VANSとのコラボレーションに至った経緯も含め、今後のスタンスについても伺った。

「ルーツはやはりストリートカルチャーになります、僕が好きでやってるから。でも、これだけ日進月歩で色々な物事が進化しているんだったらストリート系のブランドも今より更に進化しないと意味がないと自分は思っています。ずっと閉塞感がある中で物作りをやってきたので、コロナ以前とは全然違う見え方になりました。結局、自分が感動しない物に他人が感動するわけがない。自分が納得した物を作らないと人に買ってください、って胸張って言えないじゃないですか。だからこそ、絶対に自分が欲しいと思う物を作らないとならない。そういう意味で、今回のVANSはみんなが欲しいんだなっていうのが証明されたコラボになりました。ちょっとは自信もつきましたね。

実を言うと、コラボが作れただけで個人的には満足だったんです。VANSに自分の熱意が伝わったみたいな感じがして。でもローンチイベントをVANSチャイナと相談して進めていく中で、中国のテレビやラジオの取材も多数受けることになったんです。チャイナ側が事前に選んでくれていたので主要なメディアのみでしたが、日本では考えられないほど恵まれている状況です。好きなことを好きなように集中してやってきて、ある日突然蓋を開けてみたらすごいことになった、今回はそんな感じがするんです。過去にいろんな形でコラボのローンチがあったのを見てきた中で、あそこの場で発表できたのは本当に良かったです。日本のスタッフが一人も参加できなかったのは残念でしたが。自分の領域じゃないことをやろうとしても消費者って僕らの以上に頭が良くて知識も多いから騙されないんですよね。それだけに、真摯にやってきたことが正当に評価されているような感じでした。それもこれもストリートにこだわってきたからこそ。別に服飾学校の出身でもないし、ただ自分が好きなことを突き詰めてきた結果なので。好きなことをちゃんとやる、その“ちゃんと”っていうのが難しいですけど(笑)。でもそれがストリートなんだと思っています」。

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