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JOURNAL REPORT #03

Liberaiders® Director Mei Yong Interview

Liberaiders®︎ Director

Mei Yong

梅 咏

1967年北京で生まれ育ち、 10代後半から日本に住み、 世界中を旅してきた。 90年代のオリジナル・ストリートウエアを始めとする、 数々のインターナショナル・ブランドとのクリエイションに携わり、 ライフワークであるカメラを手に写真を撮り続けてきた。 彼のライフのBGMはもちろんロックンロールである。

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長引く新型コロナウイルスによる活動自粛。打撃があるのは何も経済に限った話ではない、多くの人が暮らしの中で精神的な疲弊を抱えている。それ故、安住の地とまでは行かないものの少しでも精神的な解放を求めて都会ではなく大自然へ足を向ける人が多いのは至極当然の流れかもしれない。 <Liberaiders(リベレイダース)>を主宰するMeiもこうした一人だ。

ミリタリー・トラベル・フォトグラフィー・ロックンロール。ブランドの根幹を支える4つのファクターの中でトラベルの解釈を広義に求め、行き着いた先が“be a traveler not a tourist”の精神。フラワームーブメントの息吹を感じる70年代の音楽シーン、ヒッピーカルチャー由来のマインドセットのキーワードがコレクションピースに点在する今シーズン。富士山麓でのキャンピングトラベルを経て、クリエイションはこれまで以上に多岐に渡り、より一層テクニカルさが増し、そしてユーティリティ性能に富んでいる。

一口に“ストリート”という言葉で片付けられる程イージーではない現在のブランドスタイル。そして、この状況に対してディレクター Meiは今何を思うのか。この2点を主題に、シーズンコレクションをデコードするヒントを伺った。

「ここ2年間、社会の変化についていくのは大変だった」。

―――この一言から年月以上の重みのある心理状態が伺える。2020年〜2021年の期間、ブランドとして、個人として、率直に何を感じたのだろう。

「2020年はいろんな困難を克服して、好きなことをなんとかやれた年でした。2021年はコロナの状況をある程度理解している中でいかにクリエイティブに物作りをできるか、制限下の中で何ができるのかを探索しながらやってきた1年。これまでであればどこにでも気楽に行けたのですが、中国に行きチベット滞在も含めると約3ヶ月間の旅をしたこと、VANSのローンチイベントを上海で開催できたことはコロナ前であれば普通に出来たことなのですが、かなりの努力が必要でした。当初から掲げる世界中を旅して真実を探す、というブランドコンセプトに変わりはありません。ただ、現在の状況を鑑みるとこのコンセプト自体がとても贅沢なものであり、普通に行うことが出来ない内容に変わってしまったと思っています。まだまだ困難な状況に変わりはないですが、慌てずに自分のやりたいことを真摯に努力すれば実現できることも同時に学べた1年と言えます。2020年は海外に1度も行けなかったのですが、2021年はかろうじて1度は行けたワケです。隔離の期間も経験して、普通にできていたことを相当な努力して成し遂げたことは意味合いが違いますね。

Liberaidersをストリートシーンから登場したブランドと理解している人が大勢いますが、有難いことに現在では特定のカテゴリーに定義付けができないブランドにまで進化してきているのが実情です。僕自身、若い頃からいろんなカルチャーに影響されてきているので、一つのジャンルにカテゴライズはできないと思っているんです。見る人によって、生活環境によって、住む国によって、ブランドの解釈は多様で良いと思っています。Liberaidersは20代以降の自分の人生の中で得た経験の集大成的な意味合いがあります。例えば、音楽的なことでも元々はヘヴィ・メタルやハードロックなどの音楽がルーツでしたが、日本で生活する33年間でヒップホップやR&Bも聴く様になるなど嗜好が徐々に変化してきた。つまり、趣味趣向も一つのカテゴリーで括ることはできなくなってくるものです。これと同じで、Liberaidersは特定のジャンルにカテゴライズされないブランドとなってきたと思っています。
2021年から学んできたことを含めて、2022年はブラッシュアップしつつより高いクリエイションにフォーカスできる1年になると僕自身は考えています。去年の年末に、あるお客様からのInstagramでのコメントで印象的な物があったんですが、「Liberaidersはジャンルなんて関係ないです。サーフもあれば、スケートもある。ミリタリーも、アウトドアもある。ジャンルで決めつけたらLiberaidersじゃなくなる」と書いてくれたんですね。それを見た時にすごく上手くブランド理解をしてくれているな、って思いました。ジャンルは何系かを聞かれることいまだにあるんですが、自分の中では特定のジャンル分けはしていないつもりです」。

―――少し視座を変え、近年影響を受けた人物・ブランドに関して伺うと、意外な答えが返ってきた。

「他のブランドを見る時に個人的には結構影響を受けるんです。このブランドはこういう感じで作っているんだろうな、とか、この服を作っている人はこんな人なんだろうな、というところに興味が湧くんですよね。服単体にすごく興味が湧くというのとは違う感覚かもしれませんね。稀に作っている方にお会いできる機会もありますが、ほとんどの場合作っている人とは会えないですよね。なので、Liberaidesに関しても作っている人はどんな人だろうな、って想像しながら、個々に解釈してくれたら嬉しいな、と思うんです。最近、<Saint Michael(セントマイケル)>がカッコ良いなと思っているんです。物のクオリティだけじゃなく、トータル的に。このデザイナーさんは背景に深い何かがあるんだろう、と感じさせてくれます。直接的な面識はないんですが、大阪に行ったらどこかで会うことになる様な気がするので今から楽しみです。音楽を聴いてからバンドを知ることも、バンドを知ってから音楽を聞くケースも、2通りあると思うんですが、それは洋服の世界も同じことなんだな、とこのブランドを見ると感じます。あと、昨年一番気になったのはヴァージル(・アブロー)の死。自分とジャンルは違うし、アバンギャルドな物作りをしている印象のあった方ですが、ずっと凄いなと敬意を持っていたんです。そんな方が突然亡くなってしまった。あれほど才能がある方でも病魔には勝てない。彼の死は、改めて人生の在り方を考えるきっかけになりました。経済的な成功をどの程度大切にするべきか、とは言えそこを追求しない訳にもいかない。これから自分がやっていく中で、バランスは取らなきゃならない、と感じさせられました。健康がなければ何にもならない、これは皆一様に思ったハズです。若い頃はお金に執着する面もありましたが、お金もどれ程持つ必要があるのか、ということとも似ている。丁度良い程度がどこにあるのか。(お金は)無いと欲しくなる、しかしながら沢山あると幸せかと言われたらそうでもない。お金を沢山持っている人でも幸せに見えないケースもありますし、全てはバランスかなと。お金で買えないものは沢山ありますから」。

―――長引くコロナ、お金、そして自身の健康など、ブランドだけでなく根本的な考えの見直したことが分かるエピソード。では、今後Liberaidersはどう進んでいくのかを訊いた。

「以前、アメリカのストリートブランドの代理店をやっていた頃は、次の展示会は大丈夫か、とか、売上は大丈夫だろうか、など細々神経を張り巡らせていたんですが、不思議なことにLiberaidersを初めてからは昔の様に神経質になるケースは減っているんです。もちろん展示会が終わった直後は気になることが多々ありますが(苦笑)。自分の中の変化としては、自分が良いと思える物をさらによく作れたら売れないことはないだろうと思えるし、“服 + 世界観”と以前はよく言われたのですが、自分がブランドのデザイナーをやっていなかったので、世界観という部分がよく分かっていなかった。でも、自分でブランドをやる様になってからは、この部分がクリアになりました。なので、ブランドユーザーの方々は世界観の面をよく見てくれているな、と思えることが多々あります。昨年チベットに行った際も、ブランドのファンの人からこの点を触れてもらえて嬉しかったですね。

国によってブランドの見え方が異なるのは当然のこと。例えば、国内の場合は日本語でブランドの説明ができますが、アメリカやヨーロッパは消費の動機がアジアと違う。物を見てシンプルに“カッコ良い”となれば洋服を買ってもらえる。その上でブランドの背景を調べて更に良いブランドだった、と気付きも起きます。一方で、中国は誰がブランドやっているかが重要。中国を20代前半で離れ、日本に渡り30年以上ストリートのシーンでキャリアを重ねたMeiってキャラクターが関心の対象なんです。そんな僕のことを知り、現在のステータスに興味を持って購買している。日本は、欧米と中国の中間くらい。“コンセプトと物”が注目されている印象ですかね。そうした意味では欧米寄りのユーザーが多いのかもしれませんね。

90年代は有名タレントの誰々が着ている、が重要でしたが今はそうではないですよね。時代は変わってきていると思うんです。僕らが若い頃は<Stussy(ステューシー)>が単純にカッコ良くて買っていました。ショーン(・ステューシー)がクールだから買っていた訳ではないんですよね。ショーンの存在も最初は知らないワケですし。元々、ストリートブランドは皆そうだったハズです。だから今は(ストリート)バブルが弾けたのかな、と思っているんです。誰が作っているから、という付加価値は意味を成さなくなった。シンプルにカッコ良い、悪いだけ。一部の人を除いて希少価値でお金を払う人が減ってきたのかもしれないです。ローリングストーン誌に広告を掲載しているのもそこが狙いです。あの本を読む人は僕のブランドのファンではないし、ブランドをそもそも知らない方が大半ですからね。このブランドってなんだろう? そんな感覚から調べてみようという動機付けになれば良いなと思っているんです」。

―――心境・思考に変化のあったこの2年。では2022年SSシーズン、“解放と侵略”をどう表現していくのだろう。今シーズンのテーマとともに伺った。

「2020年からなんですが、この2年間これでもかって言うくらいキャンプに行ったんです。コロナのこともあって始めたことですが、今ではライフスタイルの一部になりました。しかしLiberaidersはアウトドアのブランドでも、キャンピングのブランドでもない。ですが、キャンプをしていく中で、こういう服もあったら良いな、あんな服もあったら良いな、と新たなクリエイションに繋がっていったのは間違いないワケです。僕は富士山が大好きで、いつも富士山周辺に行くんですが、ここまでキャンプをしてきたのであれば、この(キャンプトラベルの)経験をコレクションテーマにしてみようと思い、物作りをスタートすることにしたんです。“be a traveler not a tourist”(ツーリストではなくトラベラーになりましょう)というメッセージのグラフィックはシーズンを代表するアイデアにもなりました。これは自然との対話を大切にする70年代から存在するヒッピーカルチャーに由来する言葉で、今シーズンの物作りにもこの考え方が投影されています。ネイティブアメリカンのティピ(テント)を表現した意匠もそうですね。人と自然の対話がキャンプの本質、これが感じられるコレクションになったと自負しています」。

―――アウトドア、キャンピングというキーワードを投影したコレクション。ではこれらを着こなすポイントは?

「本来、Liberaidesはストリートカルチャーをバックボーンにしたブランドなので、街で着ることを想定した洋服です。そもそもアウトドア用の服ではないので過酷な環境で性能を発揮するギアではありません。今はキャンプに行き1泊をして、翌日の午後には東京の事務所へ戻る様な生活をしているので、両方のシーンで着られるのが基準となっています。本格的なキャンプウェアを着ていたら(原宿・千駄ヶ谷付近を指して)この辺りを歩けないですからね。自分が服を買う時も色々なシーンで着ることができるかどうかがポイントにあります。だからそういう感覚をコレクションピースには落とし込んでいますね。

あとは、キャンプ云々よりも大自然との対話の方が重要なので、それを想起させるグラフィックが出てきたと考えています。70年代のヒッピーカルチャーが今シーズンは大きなウエイトを占めているかもしれないですね。<“be a traveler not a tourist”=旅行客ではなく旅人になりましょう>というキーワードが出たのも、机にだけ向かってデザインをしていないからだと思っています」。

―――今後、ブランドはどこをゴールとして歩みを進めるのだろう。そのヒントを最後に伺う。

「コロナ渦の現在、日々の仕事とのバランスが取れているのはアウトドアのおかげかなと思っています。上手くプラス・マイナスのバランスが取れた時に居心地の良い暮らしができるんだろうな、って。コロナ禍になってからそういう風に考える人が以前よりも増えた様に思いますし。キャンプ地で仕事もできるし、ランドスケープを楽しむこともできる。現地で知り合う人も沢山いるので、ますます興味が増すのかもしれないですね。こうした出会いもキャンプの醍醐味の一つですね。

一方で、海外に行ける様になったらすぐにでも行きたいのが本音です。コロナの状況も見ながらにはなりますが月毎で変化もあるので、今年はアメリカにも行ってみたいと思っています。これまでアメリカブランドの代理店ばかりをしてきたせいか、Liberaidersをスタートしたのをきっかけにアメリカ以外の国に行く様になりました。ただ、ブランドも11シーズン目を迎え、そろそろ自分のルーツになっている国に行く頃合いかなと思い始めて。特に西海岸方面に足を運べたら、と思っています。Liberaidersにとってはローカルの人間を撮影するのは大切なコンセプトなので、アメリカでも変わらず実現できたらと思っているんです。アメリカに行っても誰を撮れるかは分からないし何の保証もないですが、撮影できた時の喜びは自分にしか分からないし、そこのDNAはブランドとして残していきたい。だから“DESTINATION UNKNOWN(目的地は誰にも分からない)”のワードもずっと残しているんです。時には不安にもなるんですが、このスリルがあるからLiberaidersを刺激的に続けていける。どこに行くかを考えて、勉強もして、正直やるべきことは沢山あります。その過程も全部含めて今となっては楽しいんですが、同時に不安もつきまとう。チベットの時もそうでしたが。だからこそ、量の大小問わず、成果を持って帰ってこられたらそれは成功なんです。

探究心を無くしたらブランドはもうやれないな、とこの頃よく思います。何となく服を作っていくだけならLiberaidersじゃなくて良いので」。

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